グローバルガバナンス策定のポイントとは?~自社の成長につなげた成功事例を紹介~
2025/9/9
企業にとって自社のガバナンス体制を強化することは、事業展開・リスク軽減の観点から非常に重要です。しかし、グループ会社の設立や海外進出により自社の規模が大きくなるにつれて、グループ共通のガバナンスを効かすことは難しくなります。
そこで今回は、これまでお客様のセキュリティインシデント・IT課題に向き合ってきたIIJ編集部が、「グローバルガバナンス」や「セキュリティガバナンス」などのガバナンスの基本的な考え方から、企業の抱えるガバナンスに関する課題や解決方法についてまとめます。グローバル企業だけでなく様々な企業の担当者の方が、ガバナンスについて包括的に知っていただける基本的な内容になっているのでぜひ最後までご覧ください。
グローバルガバナンスとは?
ビジネスシーンにおいて「グローバルガバナンス」という言葉に厳格な定義はなく、企業ごとに解釈が微妙に異なっています。一般的に「グローバルガバナンス」とは、「本社だけでなく国内外のグループ企業の業務適正化などを、経営陣自らが確保する仕組み」のことです。まずは、グローバルガバナンスの基本的な考え方や役割について詳細に紹介します。
グローバルガバナンスの基本的な考え方
「グローバルガバナンス」とは、企業が国際的な舞台で成長を遂げるための重要な枠組みです。グローバルガバナンスを策定することで、異なる国や地域の法規制・文化的背景・市場動向を考慮しつつ、企業全体の目標達成に近づけます。
例えば、グローバル企業の全拠点に共通のコンプライアンスプログラムを導入することで、各国の法規制に柔軟に適合しながらも画一的な経営管理を成立できます。統一されたガバナンス体制によって情報共有の円滑化や迅速な意思決定、対外的な信頼向上、長期的なビジネスの安定性の確保につながるのです。
グローバルガバナンスの役割
グローバルガバナンスは、国際的なビジネスにおいて重要な役割を果たします。企業が多国籍に展開する中で、一貫したガバナンスを維持することは、法規制の遵守やリスク管理の観点から必要不可欠です。たとえあらゆる価値観の異なる国や地域の活動でも、徹底したグローバルガバナンスによって企業の信頼性と持続的な成長が叶えられます。さらに、グローバルガバナンスは国際的な規範も意識して策定されるため、企業がグローバル市場で競争優位性を獲得するのも重要な役割です。
グローバルガバナンスの基本戦略
以下は競争優位性を確立するためのガバナンス戦略の主なポイントです。
一貫性のあるポリシーと手続きの策定 | 全てのグローバル拠点で統一されたガバナンス方針を実施し、企業全体での整合性を確保します。 |
---|---|
リスク管理の強化 | 国際的なリスクを事前に特定し、適切な対策を講じることで、予期せぬトラブルを未然に防ぎます。 |
サステナビリティと倫理の統合 | 持続可能なビジネス慣行と倫理的な意思決定をガバナンスに組み込み、長期的な企業価値の向上を目指します。 |
以上の戦略を効果的に実行することで、企業はグローバル市場において競争力を維持し、持続可能な成長を実現できます。グローバルガバナンスは単なる管理手法ではなく、企業の戦略的な成長を支える重要な要素なのです。
ガバナンスとコンプライアンスの違い
ガバナンスと似ていて誤用しがちな言葉として「コンプライアンス」があります。コンプライアンスとは「法令遵守」ともいわれ、ビジネスシーンを含む社会規範を守り社会的責任を果たすための基準の一つです。一方で、ガバナンスはそのコンプライアンスなどが機能するための体制・枠組みを指します。つまり、ガバナンスを強化することは、コンプライアンス遵守にもつながるのです。
グローバル企業が遵守すべきガバナンスの種類
つづいてグローバル企業が重視するべきその他のガバナンスについて、以下の順番で簡単に解説します。
コーポレートガバナンス
コーポレートガバナンスは「企業統治」とも呼ばれ、東京証券取引所の「コーポレートガバナンス・コード」では「会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組み」という旨が記載されています。
例えば、取締役人事に社外取締役を設置して、自社の健全さを保持しつつ利益が最大化されるような経営を実現することを目指します。コーポレートガバナンスを強化することは内部統制を担う組織作りにつながるのです。
環境ガバナンス
環境ガバナンスは環境保全や持続可能な開発を両立させる体制であり、ビジネスにおいては環境保護・地域発展を念頭に置いた事業展開のための体制作りを指します。公共利益の保護を目指すことで、企業の健全性を対外的にもアピールできるのが魅力です。
デジタルガバナンス
自社のDX戦略とDX基本計画に関して、経営戦略・外部環境変化に基づいて策定するのがデジタルガバナンスです。各企業でAI・クラウドサービスなどのデジタル技術を活用する際に、サイバー脅威・コンプライアンス違反などの課題が増えてきたため盛んに議論されるようになりました。経済産業省が2020年に「デジタルガバナンス・コード」を策定するなど、近年かなり重視されているガバナンスの一つといえます。
ITガバナンス
ITが適切に導入・運用されるための経営管理体制がITガバナンスです。ITガバナンスによってIT資源を効率的に使いつつ、IT戦略を効果的に実行できます。デジタルガバナンスと同様に経営視点を含みますが、ITガバナンスは「IT資源全般を有効に使うこと」を主眼にしています。
セキュリティガバナンス
セキュリティガバナンスとは、企業が情報資産を適切に管理し、セキュリティリスクに備える体制作りを指します。企業全体のセキュリティ環境を改善することで、自社の発展を支え、顧客・取引先との信頼関係の構築につながります。セキュリティリスクの大きいグローバル企業においては、近年最も重視すべきガバナンスです。過激化するサイバー攻撃に対しては、適切なセキュリティガバナンスを策定し、自社に最適なセキュリティサービスを導入するのがおすすめです。
グローバル企業のガバナンス強化に関する事例
最後にグローバル企業のガバナンス強化において、いくつかの成功事例を紹介します。
【異例の取締役会】大手メーカーH社の徹底したコーポレートガバナンス
JTC(Japanese Traditional Company)の代表格ともいえる大手メーカーH社は、旧来の伝統的な大企業の体制から変化するために、近年ではコーポレートガバナンスを重視しています。
独立社外取締役を設置するだけでなく、社外の人員が取締役会の議長を務めていることに象徴されています。さらには取締役会のメンバーの過半数が社外取締役が占めており、経営において多様な視点を取り入れる姿勢が見受けられます。
【IT優秀賞受賞】損害保険S社の業界をリードするITガバナンス
国内を代表する大手損害保険業S社は、2021年に発生した大規模システム障害を契機にITガバナンスを整備しました。部門を横断する大規模ITトラブルに対して、シームレスな対応スキームを構築しています。個人情報を多く取り扱う保険会社にとって、ITガバナンスを確立することはセキュリティ面でも大きなメリットを得られるでしょう。
S社の隙のないITガバナンスは対外的にも評価され、公益社団法人企業情報化協会主催の「IT賞」にて優秀賞を受賞しています。
【インシデントを糧に!】サービス企業B社のセキュリティガバナンス
グローバルに事業を展開するB社では、海外子会社への不正アクセスが発生し、顧客の個人情報などが漏えいしました。大規模なセキュリティインシデントを受けて、「グローバルガバナンス×セキュリティガバナンスの考え」が必要なことを認識し、外部のセキュリティ運用サービスを活用してセキュリティ精度を向上させています。
数あるセキュリティ対策の中でも特に重要なファイアウォールについては、グローバル企業にも対応しているマネージド型サービスを活用し、海外現地法人もクラウド上で24時間セキュリティ監視してリスクを軽減しています。
【タイ現地法人の地道な活動】化学製品メーカーY社の環境ガバナンス
生理用品や紙おむつを手がける大手メーカーY社のタイの現地法人「DSG-Thailand」は、環境ガバナンスを考慮した運営を推進しています。パルプ・ティッシュなどの生産過程にて森林由来資源を適切に加工・流通させることで、世界的な認証プログラムであるPEFCの「CoC認証」を取得しました。これらの事業活動は現地からも高く評価され、タイ工業団地公社から「Gold Star Award」を受賞しています。
【国際機関と企業の連携】ISOのセキュリティガバナンス支援
ガバナンスに関する活動は民間企業だけでなく国際機関でも行われています。例えば、国際標準化機構(ISO)による情報セキュリティ管理システム(ISO/IEC 27001)の提供は、国際機関の活動の最たる例です。ISOの標準を導入することで、企業は情報セキュリティのベストプラクティスを遵守し、データ漏洩のリスクを低減できます。
また、ISOのほか複数の国際機関でも、企業が効果的なデータ保護体制を構築するための支援を行っています。国際機関と企業が共同トレーニングやワークショップを企画したり、パートナーシップを構築することで、効果的なデータ保護戦略を実現可能です。さらに企業側は国際機関との強固な連携によって、市場での競争優位性の確保にも繋がるため、グローバル事業を展開するうえで重要といえます。
グローバルガバナンスを徹底させて自社の成長につなげよう
今回は、ガバナンスの基本的なことを解説しました。いくつかあるガバナンスとグローバルガバナンスの関係性を考えてみると、「コーポレートガバナンスやITガバナンスなどの個別のガバナンスを、グループ全体で適用させるための“包括的に適用する仕組み”がグローバルガバナンス」と考えられるかもしれません。
これまで数々の企業がガバナンスの徹底によって、あらゆるリスク・インシデントを防止して事業を進展させてきました。そして、海外進出の際にはこれまでのガバナンスをグループ全体にも浸透させるために、グローバルガバナンスの視点を取り入れてきたのです。
IIJではグローバル企業向けのファイアウォール運用サービスを提供中です。日本語・英語・中国語に対応しており言語の壁を乗り越え、24時間365日でセキュリティ監視を実現します。グローバル企業が抱えているセキュリティガバナンス・ITガバナンスの課題を克服し、グローバルガバナンスの徹底に役立ちます。詳しくは下記ページよりお気軽にお問い合わせください。