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テクニカルレポート2 MWCレポート 移動通信業界関係者10万人以上が集うGSMAのフラッグシップイベント

IIJ.news Vol.188 June 2025

毎年スペイン・バルセロナで開催されているMWCバルセロナには世界中から業界関係者が集結し、市場全体を睨んだ最先端のやり取りがなされる。今回は長年、同イベントに赴いている筆者が最新動向をレポートする。

執筆者プロフィール

IIJモバイルサービス事業本部 MVNO事業部 コーディネーションディレクター(戦略・渉外担当)

佐々木 太志

オフラインでつながる意味

MWCは、以前はMobile World Congressと呼ばれ、最近ではその略称が正式名称となった、GSMA(移動通信業界の業界団体)が主催している一連のイベントです。なかでもMWCバルセロナ(以下「MWC」はこのMWCバルセロナを指す)は、前身のイベントの時代を含めると30年以上にわたって開催されているGSMAのフラッグシップイベントで、近年では移動通信業界関係者10万人以上が参加する巨大な展示会としてよく知られています。会場は、地中海沿岸の人気の観光地、スペイン・カタルーニャ地方の主要都市バルセロナで、2006年にそれまでのフランス・カンヌから開催地の座を継承して以降、コロナ・パンデミック時の2020年を除いて、毎年イベントを開催し続けています。

参加者にとってMWCは、代替の効かないイベントです。会場内のステージでは華やかにショーアップされた業界トップによる基調講演をはじめ、アワードの授賞式、パネルディスカッション、セミナーなどが連日開催されます。巨大な展示会スペースでは、世界中から集まったベンダ、通信事業者、メーカ、スタートアップなどのブースがひしめき合います。会場のあちこちに設置されたミーティングルームでは、寸暇を惜しんでさまざまなレベルのビジネスミーティングが行なわれ、会場の内外を問わず、参加者同士が旧交を温め合ったり、情報を交換する姿も見られます。

コロナ禍を経てオンラインでいつでも世界中とつながることができる時代が到来したとはいえ、物理的にひとところに集まって、話をしながらビジネスを進めることの重要性が失われたわけではなく、むしろオンラインの隆盛に対しバランスをとるかのように、オフラインのつながりの意味が増しているようにも感じます。

IIJは2015年に初めてMWCに参加しました。当時は、法人向けにスタートしたMVNO事業が、個人向けモバイルサービス「IIJmio」の発足にともない一気に利用者を伸ばしていった時期でした。モバイルの使われ方が時代とともに多様化していくなか、最新技術のトレンドを学んでビジネスを成長させていくことが重要だという理由からMWCの視察に人を派遣することになりました。その一員にたまたま筆者も選ばれ、このイベントに魅せられ、それ以来パンデミックの期間を除いて欠かさず参加しています。特に2018年のフルMVNOの開始以降、営業チームの海外企業への営業活動も活発になりましたが、筆者は引き続きベンダやサプライヤとのリレーションの確立、ブース展示やセミナー参加などによる最新技術・業界トレンドの把握をミッションとしています。

MWCの会場「フィラ・バルセロナ・グランヴィア」。巨大な展示場に世界各国から業界関係者が集結する。

AIの行く末

今年のMWCの一番のトピックは、昨年に続き“AI”でした。AIは一昨年、大規模言語モデル(LLM)を採用した生成AIの「ChatGPT」が空前のレベルで話題となって以後、さまざまな業界で生成AIのビジネス活用が議論されています。通信業界では、ChatGPTが登場するはるか以前から、個別の技術領域でAIを活用する動きが見られましたが、生成AIの登場後はその動きがより加速し、例えば、移動通信のインフラストラクチャの運用(オペレーションレイヤ)、移動通信ビジネスの高度化(ビジネスレイヤ)、AIアプリケーションへの計算資源の提供(アプリケーションレイヤ)など、各レイヤにおいて広範な利活用のあり方が試行されています。MWCの会場で展示されていた最新型スマートフォンの多くもAI機能搭載をアピールしており、世界中のベンダやメーカがAI時代の覇権を狙って、新しい取り組みを披露していたと言えます。

今回のMWCでのAI関連の展示で注目を集めていたのは、オペレーションレイヤではAI RANでした。RAN(Radio Access Network=無線アクセス網)は、移動通信事業者の重要なインフラストラクチャですが、近年では仮想化・オープン化が進みつつあり、AIによるオペレーション最適化との相性が良くなっていると言えます。ビジネスレイヤでは、多くのBSS(Business Support System=通信事業者のバックヤードのシステムで、契約者管理、ロジスティクス業務、ビジネスの可視化などを担う)ベンダが、AIの活用による利用者の満足度向上やチャーン率の抑制を訴求していました。アプリケーションレイヤに関しては、スマートフォン内のNPU(Neural Processing Unit=AIの学習・推論処理に特化した演算ユニット)では必ずしも性能が十分でない場合、ネットワーク側に置かれたNPUの余剰の計算能力を提供するクラウド型・ハイブリッド型のAIアプリケーションのデモが展示されていました。

しかし、このような動きの裏を見れば、いまだAI時代の“キラーアプリケーション”の絵姿が確定しておらず、複数の可能性が同時並行的に追求されつつ、巨額のAI投資を正当化する意味でも、アピールし続けなければならない現状があるように感じられました。

AIは今後、キラーアプリケーションに発展・包含されて一要素技術として見なされることはなくなるのか、あるいは(過去のMWCでもあったようにバズワードとして)忘れ去られて消えていくのか……これから数年間のMWCで示されることになるでしょう。

IoT向けeSIM「SGP.32」

ここからは、我々の本業であるコネクティビティに関連するeSIMの最新トレンドを1つご紹介します。

もともとeSIMの規格は、M2M向けのSGP.01/02と、コンシューマデバイス向けのSGP.21/22の2本立てで開発されてきました。コンシューマデバイス向けeSIMが曲がりなりにも順調に普及するなか、技術標準化では先行していたはずのM2M向けeSIMの普及は非常に低調でした。しかしここにきて、コンシューマデバイス向けeSIMの要素技術を取り入れた、IoT機器向けeSIMの規格である「SGP.32」が巻き返しを図ろうとしています。SGP.32は、最初の規格策定を終えて、2023年5月にGSMAから公開されましたが、それから2年近くが経過し、ようやく商用サービスへの導入が見え始めてきました。

SGP.32の特徴は、先行のSGP.01/02に対し、eSIM導入時のイニシアティブを利用者側に持たせたところにあります。これについて少し説明しますと、eSIMの導入において利用者がイニシアティブを持つと、利用者の端末にカメラなどユーザインタフェース(UI)や、eSIMプロファイルのダウンロードを司るソフトウェアの実装が要求されます。しかしスマートフォンとは異なり、操作画面のないM2Mデバイスではこれらを容易に搭載できないため、最初期に開発されたSGP.01/02では、eSIMプロファイルのダウンロードは通信事業者側からのプッシュで行なわれていました。しかし、通信事業者がeSIMインストールのイニシアティブを持つプッシュ型では、M2Mデバイスを製造するメーカと通信事業者のあいだに切っても切れない関係が生じてしまい、通信事業者に囲い込まれることを危惧する端末メーカとしては採用しづらくなっていました。また、規模の拡大が進むコンシューマ向けSGP.21/22とアーキテクチャが大きく異なるため、コンシューマ向けeSIMの需要増に乗じたコスト削減効果を享受できず、相対的に高コストになっていたことも、M2M向けeSIMの普及が進まなかった要因の1つでした。

そこでSGP.32では、普及が十分に進んだコンシューマデバイス向けSGP.21/22のアーキテクチャをもとに、端末に実装され大きなリソースを必要とするLPA(Local Profile Manager=eSIMをダウンロードする専用ソフトウェア)を、ダウンロードすべきeSIMプロファイルを選択するeIM(eSIM IoT remote Manager)と、ダウンロードのみに特化した軽量のIPA(IoT Profile Assistant)に分離し、eIMをIoTデバイス外に置くことにしました。これにより、端末メーカや利用者が通信事業者に囲い込まれることなく、希望のeSIMプロファイルをIoTデバイスに低コストでダウンロードできるようになります。

IIJでは、SGP.32に関する実証実験を進めており、今回のMWCでもSGP.32関連の技術を提供する多くの事業者と今後のコラボレーションに向けた意見交換を行ないました。IoT/M2Mにおけるゲームチェンジャーとも言えるSGP.32に引き続き注目していきたいと思います。

IoT向けeSIM「SGP.32」の特徴

MWCにおける日本のプレゼンス

MWCの会場である「フィラ・バルセロナ・グランヴィア」は、日本最大の東京ビッグサイトの約2倍のスペースを有する巨大な展示会場です。MWCの期間中、ここには世界各国から業界関係者が集結しますが、日本人としては、やはり日本企業のプレゼンスが気になるところです。今回も昨年に引き続き、NTTドコモ、KDDI、楽天のMNO3社が多くの人で賑わう区画にブースを出展していました。また、富士通、アンリツ、村田製作所などグローバルに事業展開している企業に加え、スタートアップの集まるホール8でも日本発のスタートアップのブースをいくつも見かけました。

近年は総務省による出展支援プログラムに後押しされて、日本企業がより容易にMWCに出展できるようになっています。通信業界のダイナミズムを肌で感じ、5年・10年先のビジネスに夢を馳せるうえでもMWCは最高の舞台と言えるでしょう。このところの国際紛争や円安の影響もあって、遠い国となってしまったスペインですが、これからも多くの日本人がMWCに参加・活躍することを期待しています。

MWCの期間中、多数の展示会に加え、パネルディスカッション、セミナー、商談などが連日繰り広げられる。


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